(映画パンフレット)『由宇子の天秤』

  春本雄二郎、片淵須直製作、春本雄二郎脚本、編集、監督作品『由宇子の天秤』(2021)

 (出演)瀧内公美、光石研、丘みつ子、川瀬陽太、河合優実、梅田誠弘、松浦祐也、和田光沙、

 (音楽)なし

・・153分の時間も全然感じなかった重た~くも登場人物たちのリアル感ある台詞のやりとりや観てるこちらも緊張してしまうほど食い入って観入ってしまう展開に観終ってからの虚脱が印象的。

なにしろ『破線のマリス』を思い起こさせたフィクションでありながらもヒリヒリと荒唐無稽でなく現実感あるズシリと重たいトーンに荒んだ救いようのないラストにいたるまで近年観たなかでも稀な良質で高等な映画にたしかに唸ってしまったが・・正直後味がわるい。エンタメとはいえ、なんでお金を払ってこんな元気や勇気や希望もないのを観なきゃならないのだ?など感じてしまう面も。

お話し的にはド~んと重たい映画で何度も観るような映画じゃないが、なにより今作の一番は主演の瀧内さんに尽きるしかない。演じる女優として(劇中でのなりきり具合には)申し分ない賛辞があるが、じっさい自分もその瀧内さん演じる木村というキャラが身近にいたらと思うとめんどくさく近づき難いかなと(とくにお気に入りのシーンとしてはコンビニでの店員との絡みかな)。そんな芯も太いキャラもラストの長回しカットで『プロミシング~』を思わず重なってしまったやりとりに「ありゃ~」と目も背けたくなる展開に観てて痛々しかったね。

・・なにが一番この映画で良かったかって、パンフのなかでの監督のインタビューでもあるように今作の製作に至った動機「このままでは日本映画も・・つくれない・・」がたしかに大きく共感したね。

昨今もオリジナル脚本どころか作家性もみられないただ単に製作委員会を柱とした原作小説や漫画の映像化にすぎないものばかりの映画じゃ世界にも顔向けできないし、楽しめないつまらない以前に観る期待も起きない。過去のような1000万円映画とはいえ作家性や毒々しさ、反体制、コンプラもなにもないエログロナンセンスのあったアートシアターのような映画がホント恋しくなるよね。そういったことを考えると今作自分でお金を集めて自ら脚本書いてつくった映画(しかもリアル感あるけっしてバカにもできない内容)に中身は荒んでたが映画として楽しめたかな。